沼のほとりから人を招く、姿なき赤子の声
川赤子
その泣き声は、助けてほしいのではない。追ってきてほしいのだ。声を追う足が、また一歩、水面へ近づく。
概要
水辺に響く赤子の泣き声で人を誘い、沼や池へ引きずり込むとされる声だけの妖怪。助けようとする者ほど深みへと誘い込まれるが、その姿を捉えた者はいない。
出現
池や沼のほとりで、どこからともなく「オギャー、オギャー」と赤ん坊の泣く声が聞こえる。溺れているのかと声のする方へ駆け寄れば、今度は逆の方から泣き声が上がる。親切に助けようとする者ほど深追いさせられ、いつしか足を踏み外して水に落ち、ずぶ濡れになっているという。
伝承
その正体は、池や沼の主のなせるわざとも、河童の類ともいわれる。海岸で「メエー、メエー」と猫のように鳴く声を、近くとも遠くともつかず聞いたという同類の話も伝わる。鳥山石燕の画集『今昔画図続百鬼』にその名が見え、水辺の赤子として古くから描かれてきた。
特徴
実体を持たず、鳴き声だけで人を惑わすのが習性である。声は前後左右へ自在に移り、追う者を池沼の深みへ少しずつ寄せていく。土地の事情に通じた古老は騒がず、泣き声のする一点をやり過ごすが、事情を知らぬ旅人ほど惑わされ、正気を失うほどに声を探させられるという。