禅の一喝と戒名で成仏した、獄苦の亡者
幽霊問答
枕元に立つ亡者が乞うのは、経でも供養でもない。ただ一つの名――それさえ授かれば、闇は晴れる。
概要
地獄の責め苦に悩む幽霊が名僧のもとへ救済を求めて現れた。戒名を与えられると成仏して消え去った。
出現
夜ふけ、寝ている高僧の枕元に音もなく立つ。獄中で種々の責め苦を受けていると訴え、長老の慈悲による済度を乞うてくる。相手かまわず化けて出るのではなく、徳の高い名僧を選んで枕辺に現れ、ただ救いだけを求める亡者である。
伝承
会津松沢の松沢寺で、亡人の塔婆の文字を書き違えた和尚に代わってそれを直したことが縁で、秀可長老が住持となった。ある夜、獄苦からの救いを乞う幽霊に、秀可は『円通を出入りする者に、どこの獄中があろうか』と一喝し、なお食い下がる亡者に『本空禅定尼』の戒名を授けると、幽霊は安んじて消えたという。
特徴
生前の罪業ゆえ地獄で責め苦を受けていると信じ、その苦しみから逃れるために徳の高い僧のもとを訪ねる。禅の理を説かれても得心せず、我が身を見てくれと食い下がる。だが求めるものはただ一つ、戒名という救いの証で、これを授かれば迷いが晴れ、心安らかに成仏していく。