旧家に福をもたらし、去れば家を傾ける子供の霊
座敷童子
座敷わらし / ザシキワラシ / 座敷ぼっこ / クラワラシ(蔵ぼっこ) / クラボッコ / コメツキワラシ / ウスツキコ / ノタバリコ / 座敷坊主 / アカシャグマ / お倉坊主 / マクラガエシ / オショボ
「そこに小さい子がいる」――遠野の旧家では、そう囁かれた家ほど栄えるという。だが見慣れぬ子供と手をつないで出て行く後ろ姿を見た日から、家運は坂を転げ落ちていく。
概要
家の中に住む子供の姿をした妖怪。いると家が栄え、いなくなると没落する。枕返しなどのいたずらをする。
出現
棲みつくのは東北の旧家、それも古い奥座敷や土蔵の奥である。昼のうちはほとんど気配を消しているが、家人が寝静まった夜更けになると、囲炉裏の灰に点々と小さな足跡を残し、どこからか糸車を回すような音を響かせる。その姿を目にできるのは、多くの場合その家の主人か、まだ幼い子供に限られるという。
伝承
岩手県遠野地方を中心に東北一円で語られ、住み着く場所によって座敷ぼっこ、クラワラシ(蔵ぼっこ)、コメツキワラシ、ウスツキコ、ノタバリコなど呼び名が異なる。愛知県の座敷坊主、徳島県のアカシャグマ、山梨県のお倉坊主、石川県のマクラガエシ、香川県のオショボなど類似の伝承も各地に見られる。
柳田國男が佐々木喜善から聞いた話をもとに1910年に刊行した『遠野物語』の17話・18話に「ザシキワラシ」として初出し、18話から21話にかけて土淵村山口の旧家・山口孫左衛門の家に伝わる「童女の神」二人の話が連続して記される。同書には、家を去った童女に村人が出会った後、まもなくその家の主従20人あまりが茸の毒によって一日のうちに死に絶えたという顛末が語られている。
原話提供者の佐々木喜善は、大正9年(1920年)発表の『奥州のザシキワラシの話』において、座敷童子を、貧しい農村で間引かれた嬰児の霊であるとする説を提示した。民俗学者の小松和彦は、この伝承を家の盛衰や富の移動を説明する民俗的な原理として分析している。
現在も岩手県二戸市の旅館「緑風荘」には座敷童子「亀麿」の伝説が伝わり、南北朝時代に同家の先祖と共に落ち延びる途中で亡くなった6歳の兄が守り神になったとされる。同館は2009年10月4日の火災で全焼したが、亀麿を祀る祠は焼け残り、2016年5月14日に営業を再開した。遠野市附馬牛町の早池峯神社では昭和63年(1988年)から「ざしきわらし祈願祭」が行われている。
特徴
その姿は5、6歳ほどのおかっぱ頭の童で、男の子は絣や縞の黒っぽい着物を、女の子は赤い着物を身につけている。年は三つほどの幼子から、十五ほどに見える例まであるという。
性質はもっぱら悪戯好きで、眠っている者の布団にそっと乗って枕の向きを変え、朝には寝ていたはずの位置がずれていることもある。人を害することはなく、むしろ福の神のように大切に扱われてきた。
座敷童子が住み着いている家は必ず栄え、田畑は豊かに実り、家運は上向いていく。ところがひとたびこの家を去ってしまうと、これまでの繁栄が嘘であったかのように、家は瞬く間に傾いていく。よその子供と連れ立って道を歩く姿を見た者は、その家の没落を予感するという。
弓矢で射かけるなど手荒に扱われることを嫌い、そのような仕打ちを受ければ、未練なく家を去ってしまう。逆に丁重に迎え入れれば長く留まり、その家に富と幸運をもたらし続けてくれる。