夜の川で魚をあさる、鳥の姿の下級天狗
木葉天狗
闇の川面にばさりと羽音。松明をかざせば、水すれすれを行く幾つもの影がいっせいに舞い上がり——見上げたときには、空にはもう何もいない。
概要
天狗の一種でありながら、鼻高の山伏姿ではなく大きな鳥の姿をとる異形。このはてんぐと読み、境鳥(さかいどり)とも呼ばれる。翼を広げれば六尺(約一・八メートル)に及び、鳶に似た羽で夜の川辺を舞う。天狗の中でも位の低い眷属として語られた。
出現
駿河の大井川では、闇にまぎれて幾羽もが群れ、川面の魚をあさる姿が目撃されたという。人の気配を鋭く察し、近づけばたちまち飛び立って闇へ消える。山深い猟場では、猟師をからかい惑わせたとも伝えられ、人前に長くとどまることは少ない。
伝承
菊岡沾涼の『諸国里人談』は、大井川で夜ごと群れて漁をする鳥形の天狗を書き留めている。松浦静山の『甲子夜話』は、これを白狼と呼び、老いた狼が年を経て天狗に化したものとし、天狗界では位が低く、薪を売り荷を運んで暮らすと記す。
特徴
群れをなして夜の川を漁り、魚を主な糧とする。人並みの顔と手足に嘴と尾羽を備え、鳶のごとき翼で敏捷に飛ぶ。神通は大天狗に遠く及ばず、人を殺めるより、驚かせ、からかうことを好む。臆病で警戒心が強く、危うしと見ればただちに翼を広げて逃げ去る。