巨木に宿り、伐る者に祟る木の精霊
木霊
その大樹だけは、誰も鉞を入れようとしない。理由を問えば、古老は声をひそめて言う——あれには、宿っておられる。
概要
樹木に宿る精霊。とりわけ百年を超えた古木や巨木に宿るとされ、木そのものが神通に近い不思議な力を帯びる。こだまと読み、山や谷で声が遅れて返る山彦を、この精霊の応えとみなす土地もある。古来、木の神として畏れ敬われてきた。
出現
山中の由緒ある一本の巨木こそ、その棲み処である。ふだんはただの大樹と変わらぬが、代々の古老が語り継いで守る木にこそ宿るという。声を放てば遅れて返る山彦や、伐ろうとした者に降りかかる異変によって、その存在が知られてきた。
伝承
古事記の木の神ククノチノカミを木霊とする解釈があり、『和名類聚抄』は木の神を「古多万」と記す。『源氏物語』も木魂を、鬼や神と分かちがたい怪しきものの列に置く。古木を伐れば血を噴き、伐り倒せば祟るという信仰が各地に伝わり、その木は容易に手を触れられぬものとされた。
特徴
宿り木を離れれば、山中を敏捷に、思うままに駆けめぐるという。ふだんは害をなさず、静かに樹に在るが、その身に斧を受ければ木肌から血を流して抗い、犯した者へ災いを返す。伊豆諸島や沖縄では今も樹霊への信仰が生き、沖縄のキジムナーも木の精の一種とされる。