古柳に宿り、娘に懸想した木の精
柳の精
川面に影を落とす柳の下は、夏でもひやりと暗い。娘たちは知っていた。あの木のそばで、髪を洗ってはいけないと。しなだれる枝は、風もないのに揺れる。まるで、誰かの腕のように。
概要
岩手県盛岡市に伝わる、老いた柳に宿った精霊。男の姿をとり、川辺で洗濯をする娘に懸想して抱きつき、気を失わせたと語られる。柳の古木にまつわる怪異の一つで、木そのものに精や霊が宿るという古い考えを背景に持つ。
出現
姿を見せたのは、水辺に長い枝を垂らす一本の古い柳のもと。洗い物に来た娘がその根方に近づくと、しだれる枝葉のあいだから男の腕がすっとのび、いきなり抱きすくめる。娘は声もあげられぬまま気を失い、柳の下に倒れていたという。
伝承
柳は、風にしなう長い枝が人の手招きや幽霊の腕を思わせることから、古くより霊の宿りやすい木として畏れられてきた。盛岡の老柳もそうして精を宿したものとされる。娘を惑わせた怪異は、やがてその木が朽ちて枯れるとともに、ぷつりと絶えたと伝わる。
特徴
宿った柳から離れては生きられず、その盛衰と怪異の力は分かちがたく結びついている。しなやかな枝を腕のように操り、根方へ寄る者をからめ取る。人を害して食らうのではなく、若い娘に心を寄せては抱きつくばかりで、木が枯れれば、その執着もろとも消えてしまう。