坂を転がり、毒気と雷光を残して消える槌形の蛇
槌蛇
坂の上から、黒い塊がごろりと転がってきた。蛇にしては太く、槌にしては生きている。追う間もなく、雷のような音と光を残して、ふっと消えた。あとに残るのは、じわりと重い、毒の気配だけ。
概要
各地でツチノコ、古くは野槌とも呼ばれる蛇状の怪。胴が横槌のように太く短く、這うのではなく坂道を転がるように移動すると語られる。加賀の随筆『北国奇談巡杖記』が金沢での目撃を書き留めるなど、古くから各地に記録が残る。
出現
現れるのは山道や坂道。加賀の金沢では、ある坂で真っ黒な横槌のようなものが人の目の前を転がり歩き、雷のような音と光とともにかき消えたという。その場に居合わせた幾人かは、あとになって毒気に当たり病みついた。
伝承
『古事記』の野椎神、『日本書紀』の野槌に草野の神の名が見え、野に宿る精を槌に見立てる古い感覚がうかがえる。『和漢三才図会』は槌形の蛇を野槌蛇として載せ、加賀の『北国奇談巡杖記』は同じ怪を金沢のある坂の出来事として書き留めた。その坂はのちに槌の子坂と呼ばれたという。
特徴
四肢のない胴だけの蛇でありながら、横槌さながらに寸詰まりで太い。這うよりも坂を丸太のように転がって進み、時に跳ねるとも言われる。身にまとう毒気は近づいた者を病ませ、人が捕らえようとすればたちまち音と光を残して消え失せる、つかみどころのなさを身上とする。