盥の水に消えた池の精

水精の翁

すいせいのおきな / 水の精

縄は結ばれたまま、水の中に沈んでいた。翁はどこにもいない――ただ盥の水だけが、静かに縁からあふれていた。

水精の翁の立ち絵

危険度・希少度

D
戦闘力

直接人を害する力は伝えられていない。

C
敵対性

脅かし惑わせはするが、深追いはしない。

S
稀少性

ただ一体、一度きりの怪異として語られる。

概要

水精の翁は『今昔物語集』に語られる水の精。かつて陽成院のあった屋敷の跡に、夜ごと身の丈三尺ほどの小さな翁があらわれ、縁側に寝る人の顔を撫でたという。捕らえて縛っても、水を張った盥に飛び込むや、みずから水と化して消え失せた。その正体は、屋敷の池に棲む水の精であった。

出現

あらわれるのは夏の夜、陽成院の跡地に建つ屋敷の西の対、その縁側である。寝ついた人の顔を、冷たく小さな手が幾度もそっと撫でていく。目を覚まして見れば、浅葱色の装束をまとい、ひどく弱りきった風情の翁が、闇のなかにぽつねんと立ちつくしている。

伝承

『今昔物語集』巻二十七第五話に記される。人々が翁を縛り、火をかざして問うても答えず、やがて蚊の鳴くような声で「盥に水を入れてくれ」と請うた。大きな盥を据えると、翁は首を伸ばして水面の己が姿を見つめ、「我は水の精なり」と言うなり飛び込み、あとには縛った縄だけが水中に残った。

特徴

身の丈わずか三尺、肌は水のように冷たく、その正体は屋敷の池に棲む水そのものである。夜な夜な人恋しさに寝所の枕辺へ寄るが、害を加えることはない。縄で縛ろうと、ひとたび水に触れれば、たちまち身をほどいて溶け去り、二度と同じ姿を結ぶことはない。

水精の翁のカバー画像