「今も出るぞ」と応える峠の怪
油すまし
油ずまし / あぶらすまし
「昔はここに、出たそうな」——口にした途端、坂の上から返事がある。「今も、出るぞ」。
概要
油すましは、天草(現・熊本県天草市)の草隅越という峠道に出たと伝えられる妖怪である。人が「昔ここに出た」と噂すると、「今も出るぞ」と応えて姿を現したという。名の由来も正体もはっきりしないまま語り継がれ、峠にひそむ声の主として知られてきた。
出現
栖本の河内から下浦へ抜ける草隅越の坂道で、老婆が孫の手を引いて通りながら、「昔ここにゃ油瓶さげたのが出よったげな」と昔話を聞かせた。すると、どこからともなく「今もー、出るーぞー」と声が返り、油すましが現れたという。噂を口にした、まさにその場に立ち現れる。
伝承
この話は、浜田隆一が天草の風習を書きとめた『天草島民俗誌』に「油ずまし」の名で記録されたのが早い伝えとされる。草隅越の峠を舞台に、過去を語る言葉へ怪が応じるという筋だけが伝わり、その姿かたちについては何も語られていない。名がなぜ「油」なのかも、確かなことは分かっていない。
特徴
決まった姿を持たず、油瓶をさげた者の形とも、峠に潜む声だけの存在ともいわれる。人の油断や興味、とりわけ自分の噂を耳ざとく聞きつけ、「今も出る」と応じて不意に現れるのを常とする。害をなしたという話は伝わらず、ただ人を驚かせ、峠道に一つの薄気味悪さを添えるだけの怪である。