竹藪で火を吐き、羽音高く飛ぶ怪鳥
波山(ばさん)
真夜中、戸の外で羽ばたく音がする。ばさ、ばさ、ばさ。慌てて開ければ、赤い火の粉ひとつ残さず、鳥はもういない。焼けぬ炎を吐く鶏は、人を驚かせるだけ驚かせて、また闇へ溶けてしまった。
概要
波山(ばさん)は、伊予国(現在の愛媛県)に伝わる怪鳥で、婆娑婆娑・犬鳳凰の別名を持つ。鶏に似て赤い鶏冠を戴き、口から赤い炎を吐くが、その火は狐火のように熱がなく物を燃やさない。ふだんは山奥の竹藪に潜んで、めったに人前へ姿を現さない。
出現
山奥の棲み処を出た波山は、真夜中にふいと里へ下りてくる。家のまわりで「ばさばさ」と大きく羽ばたき、この羽音が名の由来ともいう。音に驚いた人が戸を開けて外をうかがうと、姿はもうどこにもなく、跡形もなく消えているという。
伝承
伊予の怪鳥として語られた波山は、桃山人の『絵本百物語』に竹原春泉の絵とともに載る。深い竹藪に生じ、夜ごと口から火を吐いて飛ぶものと記された。その姿は、江戸期の『和漢三才図会』が伝える、燃え木を食う異国の鳥・食火鶏(ヒクイドリ)を下敷きにしたとする説もある。
特徴
全身は大きな鶏の姿で、燃えるように赤い鶏冠を頂く。口から吐く炎は見た目こそ激しいが熱を持たず、触れても物を焦がさない。昼のうちは人目を避けて奥に籠もり、夜更けにだけ翼を鳴らして飛ぶ。人を驚かせはしても、けっして傷つけることのない、臆病で無害な怪鳥である。