夜空を尾を引いて渡る柄杓形の怪火
渡柄杓
山の夜、青白い灯がひとつ、ゆらりと尾を引いて渡ってゆく。柄杓の名を持てど水は汲まず、掴もうとすれば逃げ、追えば消える。あれは神の国を抜け出た魂か、それとも呼ばれてゆく途中の、誰かの灯か。
概要
京都府北桑田郡知井村(現・南丹市美山町)の山里に現れると伝わる怪火。青白い火の玉が細長い尾を引いて宙をゆらゆらと渡るさまが柄杓に見立てられ、この名がついた。天火や人魂と並ぶ土地の陰火の一つで、人の魂とは別のものと考えられている。
出現
山あいの村の夜空に、ふわりと浮かんで漂い流れる。あちらこちらへ気ままに移ってゆくが、道具の柄杓に似るわけではなく、尾を引く火影がそう呼ばれるにすぎない。害をなしたという話は伝わらず、見上げるうちにいつしか消えている。
伝承
知井村では、夜に飛ぶ怪火を天火・人魂・渡柄杓の三種に区別して語り伝えた。その正体は判然とせず、神の世界から逃れてきた霊、あるいはこれから呼ばれてゆく魂ともいわれる。各地の鬼火や狐火と同じく、闇の山野に灯る説明のつかぬ火として、恐れ半分に眺められてきた。
特徴
ただ青白く灯り、尾を長く伸ばして音もなく移動するばかりで、人を襲うことも祟ることもない。近づいても掴めず、追えば遠ざかる。名に柄杓を負いながら水を汲むわけでもなく、夜が更けて人の寝静まったころに現れては、明け方には跡形もなく失せるという。