天気雨と夜の怪火に見る、狐たちの婚礼行列
狐の嫁入り
きつねのよめいり
陽は照り、雨は降る——その嘘のような空の下、誰も呼ばぬ祝言の灯が、山の端をしずしずと渡っていく。
概要
天気雨の日に見える、紋所のない数百の提灯行列。行列に欠けがない。虹や霰が兆候とされる。
出現
狐の嫁入りは、昼と夜の二つの姿で現れる。ひとつは陽が差しているのに雨がこぼれる天気雨、もうひとつは夜の山野に点々と灯る怪火である。上州(現・群馬県)では、煙草商人が日暮れにはるか彼方から近づいてくる三百ばかりの明かりを、高みへ登って眺めたと伝えられる。
伝承
天気雨を狐の嫁入りと呼ぶ風は、関東から九州まで広く分布する。土地の古老は「天気なのに雨の降る日は、出雲か伯耆のどこかで狐の嫁入りが行われているのだ」と語り、この日は遊びをやめて幻想にふけった。福島では旧暦十月十日の夕方、摺鉢をかぶり摺粉木を腰に差して豆柿の下に立つと、嫁入りが見えるという作法も伝わる。
特徴
その灯は、狐が骨に息を吹きかけて燐を光らせたものだといい、近づけば提灯はただ赤い火にすぎない。正体は連なる狐火でありながら、駕籠脇・中間・徒の者と供揃えは一人も欠けず、本物の婚礼と見紛うほど整っている。見る者を化かし、山野に幻の祝言を映し出す。