忘れられた音色の付喪神
琴古主
弾き手はもういない。それでも、聞いてほしい音がある。誰も覚えていないその調べを、今宵もひとり、掻き鳴らす。
概要
古い琴(箏)が変じた付喪神。誰も弾かなくなり、往時の音色を知る者も稀となった琴が、忘れ去られた恨みを訴えるように、独りでに音を奏でて存在を主張する。
出現
蔵の奥や古屋敷の片隅、長く使われず打ち捨てられた琴のかたわらに現れる。夜更け、誰も触れていないはずの絃がひとりでに震え、細くもの寂しい調べが流れれば、その主が目を覚ました証である。
伝承
鳥山石燕『百器徒然袋』に描かれる。八橋検校が箏曲の調子を改めて以来、筑紫箏は名ばかりとなり、その音色を聞き知る人さえ稀になった——その恨みを知らせようとこの姿を現したのだろう、と石燕は解説に記す。室町期の百鬼夜行絵巻にも琴の妖怪が見える。
特徴
破れた胴に目と口が浮かび、乱れた絃をざんばら髪のように垂らす。人の手を借りずとも自ら鳴り、忘れられた古の調べを奏でて往時の音色を今に伝えようとする。人を害することはほとんどない。