壇ノ浦を映す赤間硯の付喪神

硯の精

墨をすれば、海が満ちる。まぶたの落ちる淵の底で、八百年前に沈んだ船団がふたたび舳先をそろえてゆく。硯はただ、忘れられぬ者たちの海を、静かにたたえているだけなのだ。

硯の精の立ち絵

危険度・希少度

D
戦闘力

直接人を害する力は伝えられていない。

D
敵対性

人への害意はなく、時に福さえもたらす。

A
稀少性

限られた土地でだけ、まれに語られる。

概要

鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に「硯の魂」として描かれた、硯に宿る妖怪。赤間ヶ関(現・下関)は壇ノ浦で平家が滅んだ地であり、その名産の赤間硯に平家の怨念が宿ったものとされる。器物が年を経て化けた付喪神の一種と解釈されることもある。

出現

赤間ヶ関産の石硯を愛用する者のもとに、その怪は潜む。持ち主が『平家物語』を読みふけるうちにうとうとと眠りへ落ちる、そのわずかな隙をついて硯の海の面に異変が兆すという。書斎の机上、墨をたたえた手のひらほどの硯こそが、怪の宿るところである。

伝承

『今昔百鬼拾遺』の詞書によれば、赤間ヶ関の硯を愛でる者が平家物語を読みつつまどろむと、硯のうちに海が現れ「源平のたたかひ今みるごとくあらはれし」という。赤間ヶ関は壇ノ浦で平家一門の沈んだ地であり、その怨霊が名産の硯に宿ったものと推されている。

特徴

たたえた墨が、そのまま壇ノ浦の海へと転じる。持ち主がまどろめば水面は波立ち、矢を放ち船を寄せる源平の武者たちの合戦が現れ、波音と鬨の声、平家物語の語りが立ちのぼるという。持ち主を害することはなく、ただ滅び去った者たちの記憶を映して見せるばかりである。

硯の精のカバー画像