鬼怒川に沈められ祟った女
累
顔を奪われ、名を奪われ、淵に沈められてなお——累なる娘は、他人の唇を借りて、消えぬ恨みを語り続ける。
概要
醜さゆえに疎まれ、夫に鬼怒川の淵へ沈められて殺された女。その怨霊は後の代の娘・菊に憑いて祟ったが、祐天上人の念仏によって解脱したと伝わる、実説をうたう下総の怪談。
出現
舞台は下総国、鬼怒川のほとりの羽生村。累が沈められた淵はのちに累ヶ淵と呼ばれ、怪異の場となった。累の怨霊は淵の水面ではなく、後の代に生まれた娘・菊の身に取り憑いて現れ、その口を借りて積年の恨みと隠された非道を村人の前で語り出したという。
伝承
百姓与右衛門は、後妻お杉の連れ子で足の不自由な助を疎み、川に投げ入れて殺した。翌年生まれた娘が助に生き写しであったため、村人は『助が重ねて生まれた』として累と呼んだ。累もまた婿の谷五郎に淵へ沈められ、寛文の世、その怨霊が子孫の菊に憑いて祟る。折しも近在に滞在していた弘経寺の祐天上人が、念仏の功徳をもって累を、次いで助の霊をも解脱させたと伝わる。
特徴
みずから手を下すのではなく、生者の身に憑いてその口を借り、封じられてきた怨みと罪を白日のもとに引き出す。取り憑かれた菊は幾度も苦しみ悶え、累が去ればなお助の霊が現れて憑いた。刃も炎も通じず、これを鎮めえたのは僧の授ける戒名と念仏だけであったという。