苦い笑いに宿る絵巻の妖怪
苦笑
笑うしかない。笑い飛ばす力もないままに——その口もとに残る苦さを、そっとかたどる者がいる。
概要
苦笑いを擬人化したとされる妖怪。角の生えた獣のような姿で、江戸期の妖怪絵巻に描き留められてきた。害をなすのか益をもたらすのか判じがたい、その名のとおり苦みばしった気配をまとう。
出現
野山や辻で出遭ったという昔話はほとんど残らない。心ならずも唇の端をゆがめて笑うほかない——そんな苦い笑いがこみあげる折に、人の傍らへそっと寄り添うものと見立てられてきた。姿を確かめられるのは、もっぱら妖怪たちの行列を描いた古い絵の中である。
伝承
熊本・八代の松井文庫が伝える『百鬼夜行絵巻』のほか、『百物語化絵絵巻』『ばけ物つくし帖』など複数の絵巻に、名を添えて描かれる。姿は室町の古い絵巻の妖怪から写し取られたとみられ、「苦」と「笑」を重ねた名が、苦味を含んだ笑いそのものを写している。
特徴
触れた食べ物を苦くする毒を手に持ちながら、同じ手で人の腹の痛みを治すともいう。害と益のどちらつかずの、まさに苦笑いのような妖怪で、どんな行いをするのかは絵巻にも記されず、その多くが謎に包まれている。