夜道に蚊帳を次々吊るす狸の妖術

蚊帳吊り狸

蚊帳吊狸 / かやつりだぬき

一枚まくれば、また一枚。屋外にあろうはずのない蚊帳が、行く手をふさいで垂れている。慌てれば夜明けまで堂々巡り。丹田に力を込め、黙って数えよ――三十六枚目の向こうに、見慣れた夜道が待っている。

蚊帳吊り狸の立ち絵

危険度・希少度

C
戦闘力

驚かせ、転ばせる程度。命までは取らない。

C
敵対性

脅かし惑わせはするが、深追いはしない。

A
稀少性

限られた土地でだけ、まれに語られる。

概要

徳島県美馬市の旧三島村舞中島に伝わる化け狸の怪。夜道をひとり行く者の前に、屋外には不釣り合いな蚊帳を次々と吊るし、前へも後ろへも進めなくする。落ち着いて作法を守れば抜け出せるが、慌てれば一晩じゅうさまよう羽目になる。

出現

遭うのは決まって人気のない夜道を一人で行くときである。ふいに行く手に、一張りの蚊帳が垂れ下がる。屋外にあるはずのないものを不審に思ってまくり上げると、その内側にまた蚊帳があり、さらにまくればまた蚊帳――そうするうち前にも後ろにも蚊帳が連なり、もといた場所へ戻ることもできなくなる。

伝承

その正体は名の通り狸の仕業とされる。話は民俗学者・笠井新也の「阿波の狸の話」に採録され、のちに『日本民俗誌大系』第三巻(角川書店、一九七四年)に収められた。近代化が進むにつれ姿を見せなくなり、いまは過ぎ去った昔のこととして忘れられつつあるという。

特徴

この狸の術に囚われても、脱け出す道はある。決して慌てず、心を平静に保ち、丹田にぐっと力を込めて、目の前の蚊帳を一枚ずつまくり続ける。数えて三十六枚目の蚊帳をまくり上げたとき、ようやく妖術は解け、いつもの夜道へ抜け出せるという。

蚊帳吊り狸のカバー画像