死者の魂が化した蝶
蝶化身
灯を消しても、羽ばたきの音だけが闇に残る。あれは去年死んだ誰かかもしれず、来年のあなたかもしれない。廃屋に舞う蝶を、数えてはならない——数え終えたとき床に残るのは、いつも一房の黒髪と、白い骨だけなのだから。
概要
死んだ人間の魂が、その死後に蝶へと化したものとされる妖怪。人は死ぬと蝶や蛾になって還ってくるという俗信は各地にあり、その化身が常軌を逸した数で群れ舞うと考えられた。執念のこもった不吉なものとして、家の中へ舞い込むのを忌む土地もある。
出現
人気の絶えた山中の廃屋に、季節はずれの蝶が異様な数で群れ舞う。一夜の宿を求めて荒れ果てた家へ踏み込んだ旅人が、屋内いっぱいにひらめく無数の蝶に出くわす、という形で語られる。灯にまとわりつくように、闇から寄ってくることもあるという。
伝承
蔵王山の麓に伝わる話では、群れ飛んでいた蝶が一斉に去った後、そこには黒髪と人骨だけが残されており、その場で果てた者の魂が蝶と化して留まっていたのだと語られる。蝶を生と死の境をさまよう霊魂の化身とみる心意は各地にあり、日本では盆に祖霊が蝶や蛾となって還るとも信じられてきた。
特徴
一匹ずつはただの蝶と変わらないが、死者の執念がこもったものとされ、常軌を逸した数で群れをなす。人の骸のある場所に寄り集まって留まり、そこを離れようとしない。家の中へ舞い込むのを凶兆として嫌う土地も多く、むやみに殺したり追い払ったりするのをはばかった。