問答を仕掛ける大蟹の化身
蟹坊主
両足八足、横行自在——さあ坊主、これは何だ。答えられぬなら、その喉笛を頂こう。堂に響いていた読経がふと途切れるとき、闇の奥で鋏の触れ合う音が、こつり、こつりと近づいてくる。
概要
無住の寺に夜な夜な現れる、黒衣の坊主。その正体は甲羅を負った巨大な蟹で、泊まり合わせた僧に禅問答めいた謎かけを仕掛け、答えに窮した者を食い殺すという。山梨県山梨市万力の長源寺に伝わる話が、とりわけ広く知られる。
出現
住職を次々と失った古寺に、旅の僧が一夜の宿を借りると現れる。丑三つ時、本堂の闇から黒々とした大入道がぬっと立ち、経を読む僧の前に座り込んで、禅問答めいた謎かけを執拗に仕掛けてくる。答えに詰まれば、そのまま襲いかかるという。
伝承
長源寺には、代々の住職が消えた寺に泊まった旅の法印の話が伝わる。夜半に現れた怪僧が「両足八足、横行自在にして眼、天を差す時如何」と問うと、法印は蟹の姿を詠んだものと見抜いて正体を看破し、独鈷を投げつけた。甲羅を砕かれた大蟹は血を流して逃げ去り、寺は平穏を取り戻したという。石川・富山・福岡など各地の寺にも類話がある。
特徴
普段は寺の床下や近くの淵に潜む巨大な蟹。夜になると黒衣の僧に化けて現れ、仏法の力量を試すように問答を挑む。答えられぬ者を鋏で捕らえて食らうが、正体を言い当てられると法力に抗えず、砕けた甲羅から血を噴いて退散する。独鈷や数珠といった法具を何より恐れる。