言い残して死んだ、声だけの亡霊
遺言幽霊
水を、と繰り返す。何より欲したのは、ただ一言、伝え損ねた別れの言葉だったのに。
概要
言い残したことを胸に、あるいは飢えと渇きに苦しんで死んだ者の霊。現世への強い未練から成仏できず、水を求めてさまようとされる。対をなす水乞幽霊とともに、信心の大切さを説く戒めとして『絵本百物語』に語られた。
出現
姿は目に見えず、夜のしじまや野辺に「水……」と物悲しげに泣き叫ぶ声だけが響く。飢渇のうちに息絶えた者ほど、渇きに引かれて姿を現すという。時には、死の間際にある者が息を引き取る前、知人の枕元へふと現れることもある。
伝承
桃山人の『絵本百物語』は「遺言を言わず、または飢渇して死せし者は、迷ひ出でて水を乞い、物悲しげに泣きさけぶ」と記す。言い残しを果たせず、また仏道に疎く甘露の雨に潤されることを知らぬ者が、渇きを抱えたまま迷い出るとされる。
特徴
実体を持たず、声と気配だけで現れる。喉の渇きと胸に残した思いに突き動かされ、ひたすら水を求めてさまよう。人を襲う力はなく、その悲痛な叫びを聞いた者の胸に、遣り切れなさと哀れみを残すだけである。