罪人を地獄へ運ぶ、炎の迎え車
火の車
ひのくるま / かしゃ
臨終の床に黒煙が満ちるとき、それは迎えの合図。車輪も轅も紅蓮に燃え、すがる者の袖を焦がして宙を昇る。乗せられるのは、生前に善を積まなかった者だけ。炎はけっして、正しく生きた魂を求めない。
Overview
仏教の俗信で、罪深い者が死ぬと迎えに来て地獄へ送り届けるとされる乗物。牛頭・馬頭など地獄の獄卒が牽く、燃えさかる炎に包まれた車として描かれる。臨終や葬送のときに現れ、生前の悪業のままに亡者を火中へ引き入れるという。
Encounter
姿を見せるのは、罪ある者が息を引き取ろうとする枕元。黒煙と業火をあげて宙を駆け、看取る家族の目の前で病人を車上へさらってゆく。繋ぎ止めようと縄をかけても綱ごと焼け落ち、追いすがった者の袖は炎に焦げたと語られる。
Lore
『今昔物語集』には薬師寺の済源僧都が臨終に火車へ迎えられかけた話が載る。『新御伽婢子』では、大坂平野の老婆が獄卒の牽く車に連れ去られる夢を娘たちが同時に見て、桜の木に繋ぎ止めようとするも綱も桜も焼け落ちたと伝わる。『西播怪談実記』にも、母が火中へ投げ込まれるのを追った娘の袖が焦げていた播磨の話が記される。
Traits
車輪も轅もことごとく紅蓮の炎で、触れれば人を焼く。地獄の責め道具がそのまま迎えの車となったもので、死してのち亡者はこれに乗せられ、灼熱の責め苦のうちに冥府へ運ばれる。狙うのはあくまで悪業を負う者で、善人のもとへは来ないとされた。