肉を食えば齢を超える、水辺の異形
人魚
網にかかったそれは、人でも魚でもなかった。喜べばよいのか、恐れればよいのか。その肉を口にした者だけが、答えを何百年もかけて知ることになる。
Overview
人魚は、上半身が人、下半身が魚の姿を持つとされる異形の生き物。『日本書紀』にまで遡る目撃記録があり、出現は凶事の前兆ともされたが、その肉を食べれば齢を超えて生き続けられるとも語られた。恐れと憧れを同時に集めてきた、吉凶両面を併せ持つ存在である。
Encounter
近江国の川や摂津国の入り江など、水辺にふと姿を見せる。漁師の網にかかったり、川面に浮かんだりする形で目撃され、多くは一度きりの出来事として記録に残った。見た者はこれを喜ぶこともあれば、災いの前触れと恐れて震え上がることもあったという。
Lore
『日本書紀』推古27年に近江国蒲生河と摂津国堀江での出現が記され、聖徳太子はこれを凶兆として観音像を安置させたと伝わる。鎌倉期の記録では戦乱の前兆とされたが、江戸期には肉を食べた娘が齢を重ねず生き続けたという言い伝えとともに、めでたい存在としても語られるようになった。
Traits
頭部は人に似るが歯は魚のように細かく並び、口は前に突き出て猿の顔に近いとも伝わる。その肉には不老の力が宿るとされ、口にした者はどれほど歳月を経ても十六、七の若い姿のまま生き続け、周囲の誰もが老いて世を去っていくのをただ見送ることになる。