木に燃え下がる嬰児籠の怪火
イジコ
嬰児籠 / エジコ
泣き声に足を止めれば、闇の梢で籠が燃え上がる。赤子はそこにいない。あるのは、こちらへ伸びてくる真っ赤な舌だけだ。
Overview
青森県津軽地方に伝わる妖怪。乳幼児を入れる藁籠「イジコ(嬰児籠)」が真っ赤に燃え上がった姿で、杉やヒノキの枝から火の玉のように下がる。籠の中では赤ん坊が泣き、その声で人を呼び寄せる。松・梅・イチイ・イチョウなど、必ず木のある場所に現れることから、木そのものと関わる怪異とされる。
Encounter
小雨の降る夜ふけ、暗い杉林や国道沿いの木立を通ると、赤ん坊の泣き声や苦しげな呻き声が聞こえてくる。振り返れば木の枝に赤いイジコが燃えながらゆらゆらと揺れている。馬ソリで通りかかった馬が急にいなないて動かなくなり、見上げると神社の木に火だるまの籠が下がっていた、という遭遇も伝わる。
Lore
青森県出身の作家・北彰介の『青森県の怪談』(津軽書房、1974年)に記され、村上健司編著『日本妖怪大事典』にも収録される。旧浪岡町から青森市へ向かう国道沿いや常盤村など、津軽各地の目撃が語り継がれてきた。育児籠が燃える異形として、木への畏れと結びついて成立したと考えられている。
Traits
育児籠の姿をとりながら火をまとい、木の枝に下がって赤ん坊の泣き声を発する。哀れな声で通行人を引き寄せ、助けようと近づいた者には長く真っ赤な舌で顔を嘗めるという。馬を怯えさせて足を止めさせることもある。庚申塚の松や寺の梅など、木のある場所を選んで繰り返し現れる。