人に憑いて遠くと未来を語らせる山村の憑き物
コボッチ
クダギツネ(管狐)
グミの林の暗がりで、黒い獣がすっと影を延ばす。憑かれた病人は、行ったこともない土地の出来事を、まだ来ぬ明日の顛末を、淡々と語りはじめる。声はその人のものだ。だが、語っているのは、もうその人ではない。
Overview
コボッチは、静岡県の遠江地方、旧磐田郡の山村に伝わる憑き物。鼬に似た獣とされ、谷間やグミの林に棲むという。この地方ではクダギツネ(管狐)とも呼ばれ、通りかかる人をたぶらかしたり人に取り憑いたりする。憑かれた病人は千里眼のように遠くの出来事や未来を語り出すとされ、一種の動物霊と考えられている。
Encounter
谷間やグミの林の茂る山道を通ると、鼬のような黒い獣影が忍び寄ってたぶらかし、そのまま人に取り憑くという。憑かれるのはとくに病人が多い。遠江地方では、水辺で「一緒に泳ごう」と人を誘い、危うく水中へ引きずり込もうとする、子供のような姿の異伝も語られる。
Lore
コボッチは民俗学研究所編『綜合日本民俗語彙』第2巻(1955年)に採録された語彙に基づく。磐田郡ではクダギツネ(管狐)と同一視され、遠江地方では山中の子供状の妖怪や、年を経た河童とする異伝も伝わる。名は「小法師(こぼうし)」の訛りとする説がある。憑いた動物霊は形を持たないため祓い落とすのは難しいとされる。
Traits
鼬に似た小さな獣の姿で、人に憑くと本人の口を借りて語らせる。憑かれた病人は千里眼を得たかのように、見えないはずの遠くの出来事やまだ起きぬ未来を口にする。水辺の系統は人を泳ぎに誘い、隙をみて水中へ引き込もうとする。形を持たぬ動物霊ゆえ、その正体はなかなか見極められない。