夜更けに響き、運勢を告げる姿なき餅搗きの音
シズカモチ
静か餅 / しずかもち / 隠れ里の米搗き
夜が、しんと底まで静まった頃だ。コツ、コツ、と遠くで餅を搗く音がする。隣の男には聞こえぬらしい。音は、確かに近づいてくる。とっさに箕を後ろ手に差し出す。搗き込まれるか、搗き出されるか。隠れ里の臼はまだ止まらない。あなたの運が、いま量られている。
Overview
シズカモチ(静か餅)は、栃木県芳賀郡益子地方に伝わる音の怪異。夜中に、餅の粉をはたくような「コツ、コツ」という音だけが遠方から聞こえてくるもので、姿は持たない。音が近づくか遠のくかで聞いた者の運勢を占うとされ、「隠れ里の米搗き」の名でも語られる。誰にでも聞こえるわけではない、姿なき予兆の妖怪である。
Encounter
万物が動くのをやめた静かな夜、外へ出ると、遠方からコツコツと餅を搗くような音が聞こえてくる。はっきりした音ではなく、まるで異次元の世界からやってきたような、つかみどころのない響きである。ただし誰の耳にも届くわけではなく、聞こえる人と聞こえない人がいるという。姿を見せることは決してない。
Lore
栃木県益子地方の音の怪異として伝わり、民俗学者・柳田國男が『妖怪談義』で言及したことで広く知られる。柳田はこれを各地に類例のある現象として妖怪名彙に取り上げ、「隠れ里の米搗き」とも呼ばれると記す。宮城県史や『綜合日本民俗語彙』にも近い伝承が採録されている。
Traits
姿を持たず、音だけで存在を示す。音がだんだん近づく「餅の中に搗き込まれる」ときは運が向いてくる兆しとされ、遠のく「餅の中から搗き出される」ときは運が衰える兆しとして忌まれた。音が近づいたとき箕を後ろ手に差し出すと財産が入るともいい、この音を聞いた者は長者になるとも語られる。