夜更けに武者の髻をつかむ古猫の怪
化け猫
行灯を消してはならない。丑三つ、闇の奥から伸びる毛深い腕をつかみ損ねれば、次にその名を呼ぶのは、長年懐いていたはずの獣かもしれない。斬り落としてなお、爪の先には飼い主だった記憶が残っている。
Overview
年経た猫は化けると言われ、死人の遺体を奪う「火車」の正体ともされる。斬り落とされた腕には針のような毛が生えていた。
Encounter
丑三つ刻、行灯の下で夜更けまで書見をする武家のもとへ忍び寄るという。姿も足音もなく、闇の中から鬼のような毛深い腕だけが伸びてきて、髻をつかみ引きずり込もうとする。腕を斬り落として初めて、その正体を知る羽目になるのが常だという。
Lore
安永年間(一七七二〜一七八一)、泉州堺(現・大阪府堺市)の平瀬某が夜半に何者かへ髻を引かれ、むんずとつかまえて一刀のもとに斬り捨てた。翌朝改めると、その腕には針のような毛が生えた大きな猫の前脚だったという。古猫は三年飼うと化けるとも、目方が一貫目(約三・七五キログラム)を超えると化けるともいわれ、各地に伝わる古猫譚のひとつとして語られている。
Traits
長く飼われた猫ほど霊力を蓄えるとされ、後ろ足だけで立って歩き、人語まがいの声を発するまでに化ける個体もいるという。針毛の生えた腕を闇の中で自在に伸ばし、寝所の人間の髻をつかんで引き倒す膂力を持つ。死者の出た家に忍び込み、亡骸を奪って火車と化すとも語られる。