八丈島の山にひそむ、悪戯者の島妖怪
天子
テンジ
眠りかけた耳を、ひやりと冷たい指がつまむ。怒鳴れば「ヒャッ、ヒャッ」と笑って闇へ消える。だがその竹の手は、飢えた冬の夜には、そっと山芋を差し入れてくれるのだという。
Overview
八丈島に伝わる妖怪。ふだんは山中にひそみ、時に美しい少女に化けるが、その手は竹でできているという。山小屋の番人に悪戯を仕掛ける一方、世話になった相手には木の実や山芋を贈って恩に報いる、気まぐれで情け深い島の精である。
Encounter
現れるのは、島の山中に設けられた番小屋の夜。まどろむ番人の耳や足をつねっては「ヒャッ、ヒャッ」と笑って闇へ駆け去る。腹を立てて怒鳴りつけると逃げていくが、また夜ごとに姿を見せては悪戯を繰り返し、人けのない山の奥を住処としている。
Lore
八丈島の民話として語り継がれ、飢饉の年に山芋や木の実を恵んで島人の飢えを救った話や、牛の糞を詰めた重箱を届けて人を担いだ話が伝わる。悪戯と報恩という二つの顔が一つの姿に結ばれており、その伝承は高橋靖知編『日本の民話』(研秀出版)や未來社版『日本の民話』に採録されている。
Traits
少女に化ける力を持つが、変じても両の手だけは竹のままだという。夜ごと山小屋に忍び入って人を驚かす悪戯を好む反面、受けた恩は忘れず、食べ物に窮した相手へ木の実や山芋をそっと届ける。害意は薄く、島の人々にとっては恐ろしさよりも親しみをもって語られる存在である。