船霊が宿る幕府の巨大御座船
安宅丸
安宅丸 / あたけまる / 御座船安宅丸
罪人が甲板に足をかけると、巨船は腹の底から唸りをあげた。板きれにされてなお、その船は「伊豆へ帰る」と叫び続けた。
Overview
安宅丸は、江戸幕府三代将軍徳川家光が向井将監忠勝に命じて造らせた、全長四十七メートルにおよぶ巨大な御座船。あまりに壮麗なその船体には船霊が宿るとされ、意志を持つかのように振る舞った。廃船・解体ののちも、船材に宿った霊が人に取り憑いたと語り伝えられている。
Encounter
江戸湾に浮かぶこの巨船に、志の低い者や罪人が乗り込もうとすると、船はたちまち唸り声をあげて拒んだという。役目を終えて船蔵につながれてからは、しわがれた声で「伊豆へ行く」と幾度も叫び、人々を怖がらせた。
Lore
解体された安宅丸の船板は世に払い下げられ、ある酒屋が買って穴蔵の蓋に作り替えた。すると手伝いの女の様子が変わり、「自分を蓋にするとは許せぬ、取り殺す」と何度も口走った。安宅丸の魂が女に憑いたのだという話が、江戸期の随筆『新著聞集』に記されている。
Traits
この巨船は自らの意志と気位を宿し、乗る者の心根を見透かして、意にそぐわぬ者には声で抗った。役目を終えて解かれ、ただの板材となってもその魂は消えず、身を粗末に扱う人へ取り憑いて祟りをなした。船でありながら、一個の生命を宿したもののように人々に恐れられた。