蝦蟹を焼いて食らう、深山の一本足
山燥
さんそう / やまわろ / 山𤢖 / 山臊 / 山精
沢べりに、ぱちぱちと蟹の焼ける音がする。近づいて、つい大声をあげてしまった。獣は火を守ったまま、ぎろりとこちらを見る。その晩から、男は三日、高熱に浮かされた。――山のものを、囃してはならぬ。
Overview
山燥は、中国の『神異経』に記された深山の霊怪に由来する妖怪。西方の山奥にすみ、身の丈は一丈余り、蝦や蟹をつかまえては焼いて食べるという。爆竹のような大きな音を嫌い、これを傷つけたり侮ったりした者は病を得るとされた。日本では木曾の山中などに結び付けて語られた。
Encounter
木曾の山深く、沢のほとりで蝦や蟹を焼く煙が立ちのぼっていたなら、そこに山燥がいる。人を見ても逃げず、平然と焚火を続けるという。むやみに石を投げたり大声で囃したりすれば、その報いにか高い熱を出して幾日も寝込む——山では、この獣めいたものに手を出すなと戒められた。
Lore
古い姿は、中国の『神異経』に「西方の深山にすみ、蝦蟹を捕らえて炙り食い、爆竹を畏る。これを犯せば人をして病ましむ」と記された霊怪である。江戸期には寺島良安が『和漢三才図会』でこれに「やまわろ」の訓をあて、山童のたぐいと同一視した。同系の山精は一本足で塩を盗むとも伝わる。
Traits
一丈を超す大男とも、かかとが前後逆についた一本足の獣ともいわれ、山中に大きな足跡を残す。蝦や蟹を好み、火を扱って焼いて食う。塩を好んで山人から盗み、音を立てる者・自分を害する者には病や火事をもって祟る。文政のころ木曾では、藤蔓で編んだ一メートルもの草鞋がその履物と噂された。