川辺で魚を喰らう鋸歯の妖童
岸涯小僧
雁木小僧 / がんぎこぞう
淵のふちで、鋸のような歯が魚の頭を噛み砕く音がする。籠の中でいちばん太った一尾を岸へ投げてやり、けっして振り返らずに走れ。毛むくじゃらのそれは、人よりも魚の味をよく知っている。
Overview
岸涯小僧は、鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』に描かれた、水際に棲む小僧姿の妖怪。全身は毛に覆われ、鋸のように鋭い歯を並べ、手足には水掻きを持つ。川辺で魚を捕えては頭から噛み砕いて喰らうとされ、河童に似るが同類とは言い切れない異形である。
Encounter
現れるのは川べりや淵のほとり。夜明けや夕暮れの水辺で、獲った魚を岸に並べてむさぼり喰う。魚を売り歩く者がその姿に出くわし、抱えた魚を投げ捨てて逃げ帰ったと伝わる。人里近い浅瀬にも下りてくるが、気配を悟られると水音だけを残して淵へ姿を消す。
Lore
鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に「岸涯小僧」の名と図が載る。岸涯は水際を指し、水辺に棲む小僧の意という。同書以外の古典や口承にその名は見えず、石燕の創作とみる説が有力である。中国の水獣・水虎や、山口県の山の怪「タキワロ」との類縁も指摘される。
Traits
鋸の歯を並べた口は歯車の雁木に似て、そこから雁木小僧とも呼ばれる。水掻きのついた手足で流れを自在に泳ぎ、淵にひそんで通りかかる獲物を待ち伏せる。狙うのはもっぱら魚で、人を襲ったという話は乏しい。毛を伝って水を弾く体は、水中の暮らしによく適している。