非業に死んだお菊の無念が凝った、女の形の虫
於菊虫
後ろ手に縛られた女の形をした虫が、井戸端の垣根に鈴なりに下がっている。今年もまた、あの人の命日が、静かに巡ってきたのだ。
Overview
非業の死を遂げた「お菊」の無念が、虫の姿をとって現れたと語られる妖虫。後ろ手にくくられた女のような形で蛹となり無数に湧くとも、櫛の歯のような細身で春の宵に淡く光るともいい、伝わる土地ごとに姿を変える。
Encounter
現れるのは、お菊ゆかりの地と定まった季節に限られる。播州では姫路の古井戸のほとりに、女を縛めたような虫が数知れず這い出たといい、奈良の竹内では、櫛屋の娘が殺された場所から川下にかけて、光を帯びた虫が春ごとに湧いたと語られた。
Lore
この虫を怪異たらしめたのは、皿屋敷の物語である。一枚割った皿の罪で責められ、井戸に身を投げたお菊——寛政七年に姫路で虫が大量に湧いた折、その百年忌にあたるとして祟りと噂された。奈良には、盗みの疑いで殺された貧しい櫛屋の娘お菊の妄念が虫と化したという別伝も残る。
Traits
その正体は、ジャコウアゲハの蛹とされる。羽化を待つ間、まるで両腕を後ろで括られた人のように垂れ下がり、垣根や木の枝に幾つも並んで風に揺れる。土地によっては、櫛の歯を思わせる細い体で、春の宵に蛍めいた淡い光をまとい、水辺を音もなく漂うとも語られた。