腹に潜り錐を恐れる対馬の小河童
河虎
かわとら
その姿は梅干しほど。だが腹の中で暴れ回られれば、大の男も寝込むほかない。錐を一本、忘れずに。
Overview
河虎は、対馬(現・長崎県)の仁位村に伝わる河童の一種である。梅干しほどしかない小さな体で、人の腹の中に入り込んで患わせるが、錐で突けば鳴き声をあげて逃げ出すという。対馬藩に生きた者が書きとめた地誌『楽郊紀聞』に、その姿と退け方が記されている。
Encounter
川べりを歩いていると、姿は見えぬのに、何かが水へ飛び込むような音だけがする。それが河虎の気配だという。いつのまにか人の腹の内へ忍び込み、腹の中をあちこち逃げ回っては、憑かれた者を長く患わせる。取り憑かれても外からはそれと知れないのが、この小さな怪の厄介なところである。
Lore
対馬藩士の中山菜山が幕末に編んだ『楽郊紀聞(対馬夜話)』は、島の地誌や見聞を書き留めた書で、仁位村の河虎もそこに載る。小さな体が人の腹に取り憑いて逃げ回り、錐で突くと鳴いて逃げる——という具体的な退け方まで、対馬の水辺の怪異として記録されている。
Traits
その小ささゆえ、堂々と襲うのではなく、水音を立てて人の隙をうかがい、そっと腹の内へ潜り込む。体の中を素早く逃げ回るため捕らえにくいが、鋭い錐の先を突き立てられることをひどく嫌い、痛みに耐えかねると悲鳴をあげて外へ飛び出す。小さき水の怪ながら、憑いた相手を確かに弱らせる。