釜淵にひそむ百人力の河童
淵猿
淵の面が音もなく割れる。伸びた腕が馬の脚をとらえ、水底へ引きずり込む。だが慌てるな——その頭の皿を叩き、水をこぼしてやればいい。百人力も、ひと掬いの水とともに消え失せる。
Overview
広島県の釜淵に棲むと伝わる化け物。名に猿を負うが、頭の皿に水をたたえた河童の類で、百人力を誇り、水辺に近づいた家畜や人をつかまえては害をなす。皿の水を失えばたちまち力が抜けるという、河童ならではの弱点を併せ持つ。
Encounter
淵のほとりで水を飲む馬や、川に入った人を狙う。深い水底から音もなく忍び寄り、剛力のままに水中へ引きずり込むといい、里人は日暮れどきの淵ばたを恐れた。相撲を挑むふりをして人を淵へ誘い込むとも語られる。
Lore
中国・四国地方では、毛むくじゃらで猿に似た河童を猿猴と呼び、淵猿もその一つに数えられる。釜淵の淵猿は人畜を襲う暴れ者として知られ、頭の皿の水をこぼせば力を失うという河童退治の常道が語り伝えられた。猿猴の名は広島市の猿猴川に残り、川辺の祭りにも伝承が息づいている。
Traits
全身は獣毛に覆われ、腕は自在に伸び縮みして獲物を絡め取る。力の源はひとえに頭上の皿の水で、これが乾くか振り飛ばされれば見る影もなく弱る。金物を嫌い、水を離れれば正体を現すともいう。人語を解し、油断した相手を淵へ引き込む狡猾さを持つ。