山伏の笈が化けた火を吐く付喪神
笈の化物
おいのばけもの / 笈の化け物
主に背負われ、山を越え谷を渡った歳月がある。役目を終えて忘れられたとき、箱は脚を得て歩き出す——くわえた折れ刃は、ついに振るえなかった一太刀の名残か。
Overview
山伏が背負う笈が化けた付喪神。身体は笈のまま頂に山伏の頭を戴き、鳥のような脚で歩む。口に折れた刀の刃をくわえて火を吐く異形として描かれ、打ち捨てられた道具の恨みが凝って怪をなすとされる。
Encounter
山伏の道具が役目を終え、打ち捨てられて長い年を経た頃に立ち現れるという。江戸期の『絵本武者備考』は、室町幕府を開いた足利尊氏の弟・直義が休む寝所へ、夜ふけにこの怪が忽然と姿を見せた一件を伝えている。
Lore
山伏が仏具や経巻を納めて背負う笈が、長い年月を経て化けたものと伝わる。器物が百年を経て精霊を得るという付喪神の系譜に連なり、江戸期の『絵本武者備考』などが、足利直義の身辺を襲った異形の怪としてその姿を書き留めている。
Traits
背に負われるだけの箱であった笈が、脚を得てみずから歩み出す。くわえた折れ刀の刃の間から炎を噴き、夜の屋内を火気と異相で満たす。長く使われ、あるいは打ち捨てられた道具の恨みが凝って怪と化した、付喪神の一体である。