亡者が水を求める山上の霊地
精霊田
しょうりょうだ / しょうらいだ
水を分け合う手に、もう肉はない。額の白い紙が、彼らが越えてきた境を告げる——ここは生者の田ではないと。
Overview
飛騨と信濃の境をなす乗鞍岳の山上、千町ヶ原という広い湿原一帯の古い呼び名。古くより死者の霊が集まる田とされ、立山へ向かう亡者たちが、道の途中で立ち寄って水を飲む場所と信じられてきた。
Encounter
夜の千町ヶ原で、山案内の牛牧太郎は、白帷子をまとった数十人の男女が水を奪い合うように飲むのを目にしたという。声をかけると一人が振り向き、額の白い三角の天冠、振り乱した髪、真っ赤に燃える両眼が現れた。念仏を唱えて我に返ると、その姿は跡形もなく消えていた。
Lore
立山を死後の世界の入口とみなす信仰は飛騨にも及び、美濃・尾張の亡者が地獄谷を目指してこの高山の湿原を通ると語られた。死者の魂が行き交い集う田であることから精霊田の名がつき、しょうりょうだ、しょうらいだと呼び伝えられている。
Traits
死者の装束をまとった亡者たちが、声もなく水辺に群れて渇きを癒す。数十にのぼるその一団は、生者が近づけば一斉に振り向き、爛々たる眼光と乱れ髪の形相で人の正気を奪う。生きた者に手をかけるとは伝えられず、ただ死出の道を急ぐ者の列にすぎないという。