顔を覆う飛鼠、道をふさぐ襖
野衾(のぶすま)
のぶすま / 野襖
火が消えた。——次に瞬きした時、闇はもう、こちらの顔を覗き込んでいた。
Overview
江戸では空飛ぶムササビ状の怪物、高知では夜道をふさぐ壁として語られる、同名二系統の妖怪。江戸の野衾は人の顔にかぶさって目や口を覆い、灯火を吹き消すとされ、高知の野襖は襖のように四方へ広がって行く手を阻むという。
Encounter
江戸では夜更けの山道を行く者の頭上へ、闇から音もなく舞い降りて顔にとりつく。松明の火は不意にかき消され、旅人は視界と息をふさがれて立ちすくむ。高知の幡多では、進む先が突如として襖や壁でさえぎられ、果てなく広がって進退きわまるという。
Lore
鳥山石燕『今昔画図続百鬼』は「野衾は鼯(むささび)の事なり」と記し、その正体を飛鼠とする。『和漢三才図会』は関東で「毛毛加(ももか)」とも呼ぶと伝える。高知県幡多郡では表記を「野襖」とし、動じず煙草を一服すれば消えるという。
Traits
皮膜を広げて木々の間を滑空し、獲物の顔をとらえて生き血を吸うとされる。灯火を好んで吹き消し、闇に乗じて襲うため、火を頼る旅人ほど狙われやすい。襖と化す個体は臆した者の前にだけ壁を広げ、落ち着いて構える者には力を失う。