提灯の火を吸う、夜道の怪
火取魔(ひとりま)
火取り魔 / ひとりま
闇に頼れるのは、手のなかの小さな火ひとつ。姥の懐にさしかかれば、その火がふっと痩せ細ってゆく。誰かに吸われているのか、それとも消えかけているのか——確かめようと足を止めた者は、いない。抜ければ灯は、また明るい。
概要
提灯の灯を吸い取るとされる怪異。石川県の山中温泉、こおろぎ橋のほとりに伝わる。「姥の懐」と呼ばれる場所を夜に提灯を灯して通ると、その火がすうっと細く小さくなり、通り過ぎればまた元の明るさに戻るという。
出現
起こるのは、灯りといえば提灯しかなかった時代の夜道。姥の懐にさしかかると、手にした火がみるみる糸のように痩せ細り、あたりの闇が濃くなる。心細さに足を速め、その場を抜けたとたん、火は何事もなかったように再び煌々と燃え立つ。
伝承
土地の人はこれを火取り魔の仕業と呼んだが、山中温泉ではキツネの悪戯とも、河童の正体ともいい、定まらない。高知では同じく火が細る現象を『魔が憑く』といい、新潟・三条の翁坂には砂撒きイタチを正体とする類話が伝わる。火が弱る理由は、ついに突き止められなかった。
特徴
姿を見せず、ただ火だけを弱らせる。人に噛みつくことも、道を塞ぐこともなく、通り過ぎれば灯は元に戻り、実害らしい実害は残さない。それでも、夜の頼りをひとつだけ奪われる心細さこそが、この怪を妖怪たらしめている。