焼失した大仏の面影を宿す、寺町の松
仏の幽霊
夕焼けに黒く沈む梢は、まぎれもなくあの御首の形。焼け落ちたはずの大仏が、松の姿を借りてまだそこに立っている。
概要
仏の幽霊は、大坂の寺町のほとりに茂る松林の中で評判になった怪異。焼け落ちた京都・方広寺大仏殿の本尊に姿が似ているとの噂が広まり、一目見ようと多くの参詣人が押し寄せる、江戸後期の名物となった出来事である。
出現
大坂の寺町のほとりに広がる松林で、日暮れどきに姿を現す。一本だけ抜きん出て高く伸びた樅の木の梢が、夕焼けを背に黒々と浮かび上がる刻限を待って、遠方からも大勢の見物人が詰めかけたという。
伝承
梢の形が失われた本尊の御首そのままに見えるとの噂は瞬く間に広まり、参詣人はその木に手を合わせるまでになった。この一件は速水春暁斎の絵本読本『絵本小夜時雨』(享和元年/1801年刊)にも取り上げられ、当時の評判ぶりが今に伝わる。
特徴
日が傾いて光が斜めに差し込むと、木の輪郭が仏の頭部を思わせる濃い陰影を結ぶ。風のない夕凪の刻限にもっとも姿がはっきりし、夜が更けて闇に沈むとともに、その輪郭は溶けるように消えていく。晴れた日ほど姿が鮮明になるとも言われる。