古井戸に眠る、討ち死にの魂
井守
井戸の底で、幾つもの目が光る。応えぬなら容赦はせぬ、と小さな影が牙を剥く。だがその声に耳を澄ませば、かつて刀を握っていた者たちの、行き場のない無念が滲んでいる。
概要
井守は、越前国湯尾(現・福井県南越前町)の古城跡に伝わる怪異。討ち死にした武士たちの魂が、身の丈十数センチほどの小人となって古井戸に棲みついたものとされる。名は水生のイモリではなく、家に棲む爬虫類のヤモリを指すという。
出現
庵を結んで仏道修行に励む僧のもとには、夜な夜な虹の鳴くような声が近づくことがある。応じずにいると、身の丈4、5寸ほどの小人が群れをなして現れ、無礼者と声を荒げながら襲いかかってくる。すぐそばの古井戸をのぞけば、その底にうようよと蠢く気配が潜んでいる。
伝承
浅井了意『伽婢子』(寛文6年・1666年刊)に見える話で、落城の際に討ち死にした武士たちの魂が、井守という小人の姿になって古井戸に棲みついたと語られる。無礼を働いた者には群れで襲いかかるが、経を唱えて弔うとたちまち息絶えたと伝わる。
特徴
数十、数百と群れをなし、古井戸を根城にする。声をかけられても応じない相手を無礼と見なし、いっせいに飛びかかって取り囲む攻撃性を持つ一方、丁重に弔われれば未練を残さず静かに絶える。武士だった頃の意地と礼節を、なお引きずっているかのようである。