海辺に流れ着く、歌う白骨
溝出
みぞいだし
櫃の蓋を、そっと開けてはならぬ。中で歌っているのは、あなたが海へ流したはずの、あの骨だ。
概要
溝出(みぞいだし)は、竹原春泉が絵を描いた江戸後期の絵本『絵本百物語』(天保12年・1841年)に載る怪異。粗末に籠へ入れて捨てられた亡骸の皮がひとりでに剥がれ落ち、あらわれた白骨が歌い踊るというもの。丁重に弔われなかった遺骸に起こる祟りとして語られる。
出現
遺骸を櫃や籠に納めて打ち捨てた浜や溝のあたりで、夜ふけにどこからともなく歌声が湧く。鎌倉の由井の浦(由比ヶ浜)では、海へ捨てられた櫃が浜へ流れ着き、その中から歌が漏れ聞こえた。声をたどった僧が蓋を開けると、潮にさらされて白くなった骨が納まっていたという。
伝承
この怪を載せる『絵本百物語』は、北条高時の世の鎌倉に取材した一話を伝える。武士の利根八郎が死んだ家来の遺体を櫃に入れ、由井の浦へ捨てた。のちに新田義貞が攻め寄せた戦で、八郎は家来を捨てたその浜に取り残されて射殺される。多田克己はこれを弔われぬ家来の怨みの報い、村上健司は亡骸を粗末にすれば必ず怪となる戒めと解いている。
特徴
決まった姿を持たず、放置された骨そのものが声を発し、身を揺すって踊るのを常とする。人を直に襲いはしないが、己をぞんざいに葬った相手のもとには祟りとなって差し向かい、忘れた頃に命を奪うという。丁重に骨を拾い、供養してやれば歌はやみ、二度と現れないとも伝わる。