運転手のいない、事故を呼ぶ自動車
無人車幽霊
対向車のヘッドライトが迫る。すれ違う刹那、運転席は空だった。——ハンドルを握る手が、なぜか冷たく汗ばんでいる。あと二日、と誰かが数えはじめる。
概要
無人車幽霊は、運転手のいない自動車が深夜の街路を走るという、昭和初期以降の都市怪談である。自動車が普及しはじめたころ、東京の夜道で反対方向から近づき、すれ違いざまに運転席を覗くと誰も乗っていなかったという。これに遭った者は数日のうちに事故に遭うとされ、御殿場など各地の事故現場でも噂された。
出現
人通りの絶えた深夜、対向車線から一台の車が同じ速度で近づいてくる。すれ違う一瞬、運転席に目をやると、そこに人影がない。皇居前、なかでも帝劇の前あたりが名高い出没地とされた。遭遇した運転手は、その後二、三日のうちに思いがけない事故を起こすといわれた。
伝承
昭和五、六年ごろの東京で、深夜に無人の自動車とすれ違ったという話が広まったと、民俗学者・池田彌三郎が『日本の幽霊』に書きとめている。遭った者は数日内に必ず事故を起こすとされ、当時の運転手は魔除けに人形を車内へ吊り下げるようになったという。自動車という新しい器物が、幽霊の乗り物として語り直された怪である。
特徴
生きた運転手を持たず、深夜の直線路を猛スピードで疾走する。害はすれ違った相手に及び、遭遇者を不慮の事故へと引き寄せる。人が吊るす人形の呪力を嫌うとされ、これを下げた車には近寄らないとも伝わる。姿を留めず、事故の噂だけを置き土産に夜の街へ消えていく。