振り向けば目鼻なき大口の花嫁
お歯黒べったり
歯黒べったり / おはぐろべったり
夕闇の社に、白い項が揺れている。花嫁御寮かと声をかければ、女はゆらりと振り返る。目もなく鼻もなく、ただお歯黒の大口が耳まで裂けて――ぎゃっ、と己の悲鳴だけが境内に残る。
概要
お歯黒べったりは、江戸後期の怪談画集『絵本百物語(桃山人夜話)』に「歯黒べったり」の題で描かれた女の妖怪。顔には目も鼻もなく、お歯黒を塗った大きな口だけがある。角隠しや美しい着物をまとい、振り返った顔を見せて人を驚かす、のっぺらぼうの一種とされる。
出現
夕闇の迫る町外れの、人気のない神社や寺の境内に現れる。美しい着物や花嫁姿でうつむき、伏し拝むように佇む後ろ姿へ、親切心や好色心から声をかけると、こちらへ振り返る。その顔には目も鼻もなく、お歯黒に染まった黒い歯をむき出した大口だけが、げらげらと笑っている。
伝承
主な出典は桃山人・作、竹原春泉斎・画『絵本百物語(桃山人夜話)』(1841年=天保12年刊)で、「或人古き社の前を通りしに…目鼻なく口計り大きくてげらげらと笑ひし」と記す。福島県浜通りの平地方には盆踊りの類話も伝わる。のっぺらぼうの一種と位置づけられる。
特徴
顔面を持たず、お歯黒の大口だけを備える。美しい花嫁姿で人を引き寄せ、振り向いた顔を見せて驚かすことを専らとし、直接人を害したという伝承は乏しい。正体には、嫁入りに未練を残して死んだ女の執念、あるいは狐狸が化け損なった姿など諸説が語られる。
或人古き社の前を通りしに、うつらかなる女の伏拝み居たれば、戯れ云いて過ぎんとせしに、彼の女の振りむきたる顔を見れば、目鼻なく口計り大きくて、げらげらと笑ひし。
絵本百物語