お堂に転がり来る化け笊
イジャロコロガシ
夜更けのお堂で、カラリ、カラリと笊が近づく。目を上げれば、それはもう人の顔をしてこちらを覗いている。
概要
長野県南佐久郡に伝わる化け物。「イジャロ」とは方言で笊(ざる)のこと。古びたお堂に夜遅く一つの笊がどこからともなく転がってきて、人の前まで来ると人間の顔、人の形に化けて驚かせるという。地上を転がって人を脅かす「転バシ」の一種に数えられるが、器物が人の形に化ける点で珍しい。
出現
舞台は南佐久郡の古びたお堂の中。夜も更けたころ、堂内をカラカラと笊が転がって近づいてくる。逃げも隠れもできぬまま人の前まで来ると、その笊がぬっと人間の顔に、やがて人の姿へと変わって立ちはだかる。多くは肝を冷やすのが子供であったと伝わり、いたずら盛りの子ほど狙われた。
伝承
臼田福七ほか編『南佐久郡口碑伝説集』(信濃毎日新聞、1939年)に採録された地域伝承による。徳利や笊など身近な器物が人の形に化ける点で、転がって人を脅かす「転バシ」の中でも珍しい例とされる。後年、水木しげる『図説 日本妖怪大全』や村上健司『日本妖怪大事典』が同伝承を紹介した。
特徴
平時はただの笊だが、夜のお堂で床を転がって人へ近づき、間合いに入ると顔から人の形へと変じて相手を驚かす。狙いは殺傷ではなく人を怯えさせることにあり、とりわけ言うことを聞かぬ子供を脅すのに用いられた。笊・籠・薬缶など器物が転がる類話は各地にあり、身近な道具に潜む怪の一つといえる。