河童に憑かれ魚を貢がせた老婆
エンコ婆
エンコ(河童)関連 / 猿猴(えんこう)
洪水の川辺で「逆さに背負うてはくれないか」と乞う小坊主――その願いを断った晩から、婆の背には見えぬ河童が張りついていた。湯に責められて音を上げた水の主は、詫びの証に毎朝の魚を欠かさなかった。
概要
エンコ婆は、愛媛県南予の旧城辺村(現・愛南町)に伝わる、河童=エンコに憑かれた老婆。川を渡ろうとした婆にエンコが取り憑き、様子がおかしくなったが、家人が湯責めにして正体を表させた。詫びたエンコは以後、毎日新鮮な魚を戸口に届けるようになり、婆の家は大いに栄えたという。
出現
洪水で橋が流された川を、婆さんが飛び石伝いに渡ろうとすると、川中から小坊主が現れ「婆さん、逆さに背負うてはくれないか」と声をかける。逆さはおかしいと普通に背負って帰った晩から、婆さんは寝込み、子を逆さに背負おうとするなど様子が一変する。これぞエンコの仕業と知れた瞬間である。
伝承
エンコは南予で河童を指す方言で、猿猴(えんこう)とも呼ばれる毛深い河童の一種。愛媛では、水辺で人馬を淵へ引くいたずらの後に許され、詫びとして毎日魚を届ける報恩型の話が各地に伝わる。旧城辺町にも庄屋二神伝兵衛の妻をめぐる猿猴の類話が記録され、エンコ婆はその南予的な憑依・報恩譚として位置づけられる。
特徴
川を渡る者に取り憑き、憑かれた人は物を逆さに背負おうとするなど挙動が乱れる。エンコは金物や農具を嫌い、鹿の角を魔除けとする。正体を暴かれると悪事をせぬと詫び、鉤形の鹿の角を戸口に吊るして約束の証とし、以後は毎朝の魚で恩を返す――害よりも報恩へ転じる、南予らしい水の怪である。