大津波を予言した八重山の人魚
ザン
ザンノイオ / ザンノイユ / 人魚
網が重い。引き上げれば、魚の尾をもつ女が涙を流していた。海へ帰してやると、女は振り返って言った。じきに海が起き上がる。山へ、早く。信じた村は山の上から、信じなかった村が波に呑まれるのを見ていた。
概要
ザンは、沖縄県の八重山諸島に伝わる人魚。上半身は美しい女、下半身は魚の姿をもつ。ザンは方言で海獣ジュゴンを指す語でもあり、実在のジュゴンが伝承の母体とされる。石垣島野底村では、助けてくれた漁師への礼に大津波の到来を予言し、村人を救ったと語り継がれる。人に害をなさぬ、海からの使いのような存在である。
出現
尚穆王の代(1739〜1794)、石垣島野底村の三人の漁師が網で重い獲物を引き上げると、上半身は美女、下半身は魚のザンだった。ザンは「陸上では生きていけません、海の家へ帰して下さい」と涙ながらに乞い、漁師は海へ放してやった。ザンは礼に、間もなく津波が来るから山へ逃げよと告げて海へ消えた。
伝承
石垣島のザンの津波予言譚は、上勢頭亨『竹富島誌』(1971年)などに記録された八重山の口承に基づく。「ザン」は沖縄・八重山でジュゴンを指す方言であり、実在の海獣が人魚像の背景にあると考えられている。伝承は明和8年(1771年)の八重山地震による明和の大津波という史実と結びついて語り継がれてきた。
特徴
上半身は美しい女、下半身は魚。人の言葉を解し、海中の我が家を恋うて涙を流す情を持つ。捕らえて陸へ上げれば生きられず、逃がした者には恩義に報いて災いの到来を告げる。海の異変を先んじて知る性質をもち、迫る大津波を予見して人へ警告を発したと伝わる。人を襲うことはない。