神が乗り移り病を癒す憑坐
トリダシ
トリイダシ / トリイザシ
薪を背負って山を下りたその日から、老婆の口はもう老婆のものではなかった。神は正直な者を選び、嘘をつかぬ舌に宿る。だから村人は、医者が匙を投げた病人を、その口の前に連れてくる。取り憑かれることが、ここでは救いの別名だった。
概要
トリダシは、急に何かに取り憑かれ、今までにない通力を得た人をさす福岡県宗像地方の呼び名。憑いたものは病を予言し、治すという。佐賀県ではトリイザシと呼び、九州・四国では地蔵や稲荷が乗り移って禍福を占う「トリイダシ」という占いの一種にもつながる。加害的な憑き物と異なり、人に利益をもたらす巫俗の系統に位置づけられる。
出現
福岡県宗像郡神湊町(現・宗像市)で語られる。山へ薪を取りに行った老婆が薪の中にいた神を家に持ち帰り、その神が乗り移って老婆はトリダシになったという。トリダシには女性や正直な人がなりやすいとされ、山や薪といった山の気配とともに、ある日突然、通力が身に降りてくるかたちで現れる。
伝承
トリダシ・トリイダシの語は柳田國男監修・民俗学研究所編『綜合日本民俗語彙』(平凡社、1955〜1956年、全5巻)に収録される。福岡県宗像のトリダシ、佐賀県東松浦郡七山村(現・唐津市)のトリイザシ、九州・四国で地蔵や稲荷が憑いて禍福を予言する占い「トリイダシ」を関連づけて解説する。神霊が人に乗り移る憑依信仰・巫俗の一形態にあたる。
特徴
山の神が薪や道具にひそみ、それを持ち帰った者へ音もなく乗り移る。憑かれた者は急に通力を得て、人の禍福を予言し、病を言い当て、医者がさじを投げた病人さえ祈って癒すという。宗像では女性や正直な者ほど選ばれやすく、福岡のある地では憑いた野狐を操る野狐使いをトリイダシと呼ぶ。害をなす憑き物とは逆に、福をもたらす憑坐である。