田畑を薙ぐ、鞭鳴りの悪風
ムチ
ブチ / ムジ
鞭が鳴る。田の上を、獣道を、渡っていく。目を閉じよ、それだけが、生きて帰る唯一の作法だ。
概要
ムチは、高知県の土佐地方に伝わる悪風の妖怪。田の上を鞭を振り回すような勢いで吹き抜け、これに当たると重い病にかかるとされる。牛馬に取り憑いて曳く者を襲う類話もあり、土佐郡ではブチ、ムジとも呼ばれる。
出現
高知県高岡郡や高知市の山間の道、あるいは田の上を歩いていると、鞭を振り回すような音とともに強い風が吹き抜けていくことがある。これに当たると、その場では気づかぬまま、やがて重い病を発するという。夜道で牛馬を曳く者は、目隠しをしなければ取り殺されるとも伝えられる。
伝承
桂井和雄「土佐の山村の『妖物と怪異』」(『旅と伝説』15巻6号・通巻174号、三元社、1942年)は、高岡郡佐川町での「田の上を鞭のように吹く風にあたると悪い病になる」との伝えと、高知市での「夜道で牛馬に憑き鞭のような音を立てる。曳き主は目隠しをしないと取り殺される」との伝えを、いずれも岡林清惠の話として記録する。土佐郡鏡村・土佐山村には、ムジ・ブチという類話も伝わる。
特徴
鞭を打ち鳴らすような音を立てて吹き抜ける、姿を持たない悪風である。田畑を渡るときは人に病をもたらし、夜道では牛馬のまわりに憑いて音を立て続ける。曳き主が目隠しをせず正体を見澄まそうとすると、たちまち取り殺されるという。皮膚を鋭利な刃物で切ったような傷を残す類話も土佐郡に伝わる。