山中で一度だけ呼びかける声
一声叫び(ひとこえさけ)
山の奥で、名を呼ぶ声がした。一度だけ。振り向く前に、もう一度呼んでみるといい。人ならば、必ず応える。それが叶わぬ声には、決して応えてはならない。
概要
山中の妖怪は人を呼ぶ際に一声しかかけないとされ、その一声だけの呼び声、またはそれを発する妖怪を一声呼び・一声叫びという。岐阜県大野郡では、山小屋で人を呼ぶときは必ず二声続けて呼び、自分が人間であることを示す習慣がある。
出現
夕暮れ時から夜にかけての山中、とりわけ山小屋や炭焼き小屋の周辺で、名を呼ぶような一声だけの声が聞こえる時に起こる。姿は見えず、声のみが一度きり響くため、うっかり生返事をしてしまうと、相手が人か妖怪かを確かめる術がない。
伝承
岐阜県大野郡の山間部に伝わる伝承で、柳田國男監修『綜合日本民俗語彙』(1955年)や桜井徳太郎編『民間信仰辞典』(1980年)に記載がある。同種の伝承は樺太・北海道のアイヌにも見られ、山中で呼ばれても軽々しく応じない習慣が各地に分布する。
特徴
自らの正体を示す術を持たず、一声だけを発してその場を去る性質がある。二度目を重ねて呼ぶことができないため、山の民は二声続けて呼び合うことでこれと人間とを区別する。声だけの存在で、姿を現したという記録はない。