深夜、神木に釘を打つ呪詛の作法
丑の刻参り
境内に下駄の音が響く。白装束の影が御神木に釘を打ち込むたび、木は低く軋む。あと何本、あと何夜。満願の夜まで、誰にも見られてはならない。見つめ返す視線ひとつで、積んだ釘の数だけ呪いは己の影へと巻き戻る。
概要
丑の刻、すなわち深夜一時から三時頃に神社の御神木へ、恨む相手に見立てた藁人形を五寸釘で打ち付けて呪い殺そうとする呪術。江戸時代に広まった俗信で、「人を呪わば穴二つ」の言葉どおり、呪う側にも同じ災いが返るとされる。
出現
全国の神社、とりわけ大木の茂る境内で、人気の絶えた深夜に見られるという。白装束に鉄輪と蝋燭を戴き、一本歯の下駄を履いた姿で御神木に釘を打つ。行に気づかれると呪いは成就せず、目撃者は口外を固く禁じられたと伝わる。
伝承
起源とされるのは宇治の橋姫の説話で、夫に裏切られた女が貴船神社に籠もって鬼神への変化を願い、宇治川に二十一日間浸かって鬼と化したという。鎌倉時代の『平家物語』剣の巻に記されたこの話は、室町期の能「鉄輪」にも翻案され、後の呪術の型を形づくった。
特徴
満願は七日目の夜とされ、途中で人に見られれば呪力は失われ、術者自身に災いが返るという。藁人形には髪や爪、名前を込めて相手の身代わりとし、胸に下げた鏡が己に跳ね返る呪詛を防ぐとされる。恨みの深さが、そのまま呪いの威力になる。