山寺の庫裏に棲む人喰い老婆
古庫裏婆
糸車がきい、きいと軋む音の合間に、微かな衣擦れが混じる。振り向けば老婆はにこりと笑うだけだが、その袖からのぞく髪飾りは、たしかに誰かの黒髪で編まれている。
概要
山寺の庫裏に棲みつく老婆の妖怪。生前は住職の妻であったとされ、檀家の供物を盗み、墓を暴いては屍を喰らう。鳥山石燕の絵に残る、古い僧院に潜む死の気配そのものである。
出現
人里離れた山寺に一夜の宿を求めた旅の僧が、庫裏で糸をつむぐ老婆の姿を見かける。愛想よく招き入れられ夜具まで借りるが、朝になるとその姿はどこにもなく、麓へ戻らない者も多いという。
伝承
『今昔百鬼拾遺』(1781年・安永10年刊)の石燕の解説によれば、七代前の住職の妻であった老婆が庫裏に棲み着き、檀家が納めた食物や金を盗み、さらに墓地の死者を掘り起こして髪を編んで着物とし、屍の皮を剥いで肉を食らうようになったという。図では猫を傍らに糸をよる姿で描かれている。
特徴
夜更けの庫裏でひたすら糸をより続け、訪れた者を穏やかに迎え入れる。だが泊まった僧が寝入ると襲いかかって命を奪い、その肉を食らって死骸は墓へと運び去る。老いた尼僧然とした物腰と、死者の髪で編んだ衣をまとう異形の正体との落差が、この妖怪の恐ろしさの核にある。